つかの間の夢 4

「……う……っ……」
胸の突起を舐めあげられ、ルーファウスは、思わず声をあげた。
もう片方も、器用な長い指で弄ばれ、じんじんと疼いている。
なぜ、男の自分が、こんなところで感じるのかわからない。
「………うぅ………」
指で、敏感になった部分をつぶされ、また声が漏れた。
「色気のない声を出すな」
セフィロスがあきれたように言い、ルーファウスの胸から顔をあげる。
「……女じゃないんだ、仕方ないだろう」
ルーファウスは、セフィロスを睨んだ。
「そんなところで感じるか」
「……そうか?」
セフィロスが意地悪く笑い、また、ルーファウスの胸に唇を寄せた。
「んっ……」
ルーファウスは、唇を噛んで、声を殺した。
それを見て、セフィロスが小さく笑う。
「よさそうだな」
「よくなど、ない…っ」
「では、これはなんだ?」
セフィロスが手を下に伸ばし、ルーファウスのモノに指をからめる。
それは、見るまでもなく、わずかに勃ちあがっていた。
ルーファウスは、思わず、顔をそむけた。
だが、力強い手に、両足を開かれ、目を見開く。
足の間にセフィロスが身体を割り込ませ、ルーファウスの膝を立てさせてくる。
思わず、ルーファウスは両足を閉じ、身体をずりあげようとした。
だが、セフィロスの力にかなうはずもない。
腰を掴まれ、セフィロスの身体の下に引き込まれる。 膝を折られた両足を抱えあげられ、大きく身体を開かれた屈辱的な体勢で押さえこまれ、ルーファウスは唇を噛んだ。
「今さら逃げるな」
また、セフィロスはあきれたように言った。
「帰らなかったのはおまえだ」
「……わかっている……」
そう、わかっているのだ。
自分もセフィロスが欲しかった。
この、美しく、研ぎ澄まされたような身体に触れられてみたかった。
だから、セフィロスの手を取った。
それに、男同士がつながる場合、どうするのかを知らなかったわけでもない。
そしてもちろん、自分が抱かれる側なのだ、ということも、はじめからわかっていた。
だが、頭でわかっていることと、実際にやられることとでは、まったく違う。
男でありながら組み敷かれ、同じ男の前に身体を開く。
それが、これほど屈辱的なものであることなど、知らなかった。
自分の弱点をすべてさらけ出すこの体勢は、結局のところ、相手への服従を意味するものなのだ、ということも、初めて知った。
そのことに、どうしても拭えぬ抵抗感があるのだ。
だが、ルーファウスは小さく息をつくと、身体の力を抜いた。
「わかった……もう逃げないから、なんでもしろ」
その途端、セフィロスが噴き出した。
ルーファウスはむっとして、くっくっと肩を震わせて笑う英雄を睨んだ。
「なぜ笑う」
「この状況で言う言葉か、それは」
セフィロスは、なおも笑っている。
「見た目のわりに、本当に色気がないな、おまえは」
「うるさい。せっかく私が覚悟を決めたのに、笑うとはなんだ」
ルーファウスは、のしかかる身体を押しのけた。
「私に興味がなくなったのなら、やめろ。別に頼んでなどいない」
そっけなく言い、身体をひねってセフィロスの身体の下から抜け出そうとした。
だが、強い力で腰を引き寄せられ、また、組み伏せられる。
見上げれば、セフィロスは、 獰猛な笑みを浮かべていた。
「逃げるなと言っただろう。そんなに怖いか?」
ルーファウスは、頬に血が上るのを感じた。
「怖くなどない」
反射的に反論する。
だが、自分でもよくわかっていた。
そう、怖いのだ。
この無防備な体勢も、先ほどから与えられている快楽も、これから自分の身に起こることも。
ルーファウスにとってセックスが特別なものだったのは、はるか昔のことで、暇な夫人達との情事に慣れた今では、単なる欲望の処理でしかなくなっていた。
だから、セフィロスの手を取った時も、それほど大したこととは思わなかったのだ。
受け身である、という違いはあっても、結局は、単なるセックスだ。
そう思っていた。
だが、実際はなにもかもが、違った。
服をすべてはぎ取られ肌と肌が触れ合った感触も、自分を抱きしめ組み伏せてくる力強い腕も、激しい愛撫を繰り返す唇と骨ばった指も、なにもかもが強烈だった。
だが、これはまだ序の口なのだ。
これから、自分の身体がどうなってしまうのかが、恐ろしくてたまらない。
だが、自分が、翻弄されていることも、恐怖を感じていることも、セフィロスに悟られるのは嫌で、先ほどから必死で、何食わぬ顔をしていたのだ。
それなのに………。
「それなら、なぜ震えている?」
セフィロスのからかうような声に、ルーファウスは目を瞬いた。
「なんだ、気がついてないのか?」
力強い手が、ルーファウスの手首をつかみ、持ち上げる。
その指先は、セフィロスの言うとおり、細かく震えていた。
信じられぬ思いで、自分の震える指を見つめる。
セフィロスが、その指に唇を寄せ、一本ずつゆっくりと愛撫していく。
ルーファウスは、身体を震わせた。
「色気はないが……おまえにはそそられる」
セフィロスが、囁いた。
「な……に……」
「懐かない野生の動物は、手なずけたくなるだろう?」
そういうと、セフィロスは、長い指をルーファウスのモノにからめた。
まだ、わずかしか欲望を示していないそれを、強くこすりあげる。
「あ………」
ようやく与えられた直接的な快感に、ルーファウスは唇を震わせた。
次の瞬間、セフィロスの唇が、ルーファウスのモノを包み込んだ 。
そのまま、柔らかい唇と舌に愛撫され、あっという間に勃ちあがる。
口に含まれたまま、骨ばった指に強くこすりあげられ、ルーファウスは喘いだ。
「あ……ああ……」
シーツを掴み、強烈な快感に耐える。
「……ああっ……待っ……」
セフィロスの指と口に容赦なく責め立てられ、追い上げられる。
「…あ……あ…………セ……セフィ……ロス……!…」
「なんだ」
「だめ……だ……もう……っ……」
「いけ」
熱い粘膜に包まれたまま、根元を、強く指でしごかれる。
「…ああ……っ………」
背筋を快感が走り抜ける。
それは、なじみのある感覚だったが、いつもよりずっと激しいもので、ルーファウスは身体を震わせながら、欲望を吐き出していた。
「……あ……あ……」
荒い息に、胸が波打つ。
だが、ふと、奥まった部分に刺激を感じ、ルーファウスは息を飲んだ。
セフィロスの指が、後腔に触れてきたのだ。
「力を抜け」
低い声が言ったかと思うと、ぐいと身体の中に指が入り込んだ。
ピリリと鋭い痛みが走る。
身体を開かれる異様な感覚に、ルーファウスは眉を寄せ、唇をかみしめた。
だが、再び、セフィロスの口に包みこまれ、快感に喉をあおむける。
快楽を与えられながら、入り込んだ指にすこしずつ身体を開かれ、ルーファウスはうめいた。
愛撫による快感と、指に身体を開かれる感覚が、混ざり合い、感じているのが快楽なのか、それとも苦痛なのか、その境目があいまいになっていく。
「あ……ああ……」
指が増やされ、次第に、動きが激しくなっていく。
後腔をかき回され、セフィロスの口の中で、追い立てられ、ルーファウスは喘いだ。
やがて、ふと、身体の中を開いていた感覚がなくなった。
ほっと息をつく。
だが、身体の中心に熱い塊を押し当てられたのを感じ、思わず、ルーファウスは身体をこわばらせた。
それがなにか、などわかる。
「挿れるぞ」
セフィロスが囁く。
ルーファウスは、目を開いた。
すぐ近くに、蒼い瞳がある。
「力を抜いておけ」
その、瞬間だった。
「ッ!!」
今までとは比べ物にならない大きさのものに、身体をこじ開けられ、ルーファウスは声も出せずにのけぞった。
激痛に目から涙があふれ出したのを感じる。
「あ……あ…………」
身体が引き裂かれるような痛みに、息もできない。
思わず、のしかかるたくましい身体を押しのけようと、手を伸ばす。
ふと、セフィロスの動きが止まった。
「ルーファウス」
名を呼ばれ、目を開く。
痛みに朦朧とした意識の中に聞こえたその声は、意外なほど優しく、ルーファウスは、セフィロスの顔を見ようと目を瞬いた。
だが、あふれ出す涙で、なにも見えない。
セフィロスの身体を押しのけようとしていた震える両手を掴まれ、たくましい肩に乗せられる。
「つかまってろ。少しきついぞ」
セフィロスの両手に、腰を抱えあげられる。
すさまじい激痛がルーファウスを襲った。
「あああああっ!」
熱い塊が、身体の中に押し込まれてくる。
また、涙がぼろぼろとあふれた。
身体に埋め込まれた熱い楔は、容赦なく奥へ奥へと打ちこまれ、ルーファウスの身体を開いていく。
やがて、セフィロスの身体の動きが止まり、ルーファウスは小さく息を吐いた。
だが、たくましい腕に肩を掴まれ、ぐいと下に引き寄せられ、再び全身に走った激痛に、ルーファウスは悲鳴を上げた。
腰に、熱い肌が打ちつけられ、セフィロスのモノがすべて埋め込まれたのだと悟る。
身体の奥深くで、熱く硬いものが脈うっているのを感じながら、ルーファウスは、痛みに全身を震わせた。
だが、それで終わりではなかった。
埋め込まれたものが、ゆっくりと動きだす。
決して荒々しい動きではなかったものの、慣れない身体には、拷問とすら思えるようなもので、その、気の遠くなるような痛みと苦しさは、ルーファウスから、プライドも矜持も、なにもかもをはぎとった。
ルーファウスは、震える指でセフィロスの身体にしがみつき、痛みと苦しさにぼろぼろと泣きながら、蹂躙されるままに身体を震わせ続けた。
「ルーファウス」
深い声が呼ぶ。
痛みに朦朧としながらも、ルーファウスは目を開いた。
蒼く美しい瞳が、すぐ近くから自分を見下ろしている。
「痛いか」
ルーファウスは、泣きながらうなずいた。
「そうだな」
セフィロスが言い、ゆっくりと唇をルーファウスの額に押し付けた。
唇は、次に、涙を流す目元に触れ、やがてルーファウスの唇に重なった。
優しく、穏やかなキス。
だが、その唇が離れたかと思うと、再び、硬く熱いものに身体をえぐられ、ルーファウスは、悲鳴をあげた。
そのまま、激しく何度も突き上げられ、身体を打ち付けられる。
もうなにも考えれられない。
揺さぶられるままに、ひたすら声をあげ、悲鳴をあげる。
自分が何を言っているかさえ、もうわからなかった。
やがて、自分の身体の上で、セフィロスがうめくのが聞こえ、ひときわ、激しく突きあげられた。
痙攣した身体を、たくましい腕に強く抱きしめられる。
身体の奥深くで、セフィロスの欲望を受け止めながら、ルーファウスはぐったりとシーツに沈み込み………やがて、そのまま、意識を手放した。

□■□■□■□

「ルーファウス」
深い声に、ルーファウスは、ぼんやりと目を開けた。
自分をのぞきこむ、蒼い双眸に、気づく。
一瞬で目が覚め、ルーファウスは飛び起きた。
いや、起きようとしたのだった。
だが、身体の奥を走った痛みにうめき、そのまま、ベッドに倒れ込んだ。
「寝ていろ」
骨ばった手が、なだめるように、あらわになった肩に触れる。
その手の冷たさと深い声に、ようやく、ルーファウスは、すべてを思い出した。
ここはセフィロスの寝室だ。
そして、ここで自分は、セフィロスに抱かれた。
その瞬間、まだ男の身体を受け入れているかのような感覚を身体の奥深くにまざまざと感じ、頬が熱くなる。
それをごまかすように、片手で顔を覆い、つとめて平静を装った。
「何時だ」
ひどく掠れた声が出て、眉を寄せる。
昨日、自分がさんざん声をあげたことを思い出し、また、頬に熱さを感じた。
「まだ夜中の3時だ」
セフィロスが言い、手にもったグラスを差し出した。
「水だ。飲め」
伸ばされた腕に支えられ、ルーファウスはゆっくりと体を起こした。 それだけの動きでも、身体の奥に痛みが走る。
受け取ったグラスに口をつけ、だが、ふとセフィロスが鎧を身に着けていることに気づき、目を見開いた。
「出かけるのか?」
セフィロスは、肩をすくめた。
「出動命令だ。ウータイに行く」
「こんな時間にか?」
「向こうで、なにか動きがあったらしい。今回は行かなくても大丈夫かと思っていたが…やはりおれが行かないとどうにもならんらしい」
セフィロスの唇にかすかな笑みが浮かぶ。
「もっとおまえを抱きたかったが、仕方ない」
からかうように言われ、ルーファウスは頬が赤くなるのを感じた。
「もうやめてくれ。これ以上やられたら死ぬ」
ごまかすように、わざとそっけなく言う。
セフィロスは、苦笑した。
「痛かったか?」
「あたりまえだ。死ぬかと思った」
ルーファウスの言葉に、セフィロスは困ったように笑った。
「あんなに泣かせるつもりはなかったんだがな……おまえの泣き顔にそそられた」
「なんだそれは」
「もっと泣かせてみたくなって、少々、無茶をした」
ルーファウスは眉を寄せ、セフィロスを見つめた。
「あれは……わざとやったのか?」
セフィロスが、また苦笑する。
「………酷いことをする」
ルーファウスは、セフィロスを睨んだ。
「おかげで、身体がぼろぼろだ」
「悪かった。次は、あんなことはしない」
「……次があるとでも……?」
「ないのか?」
セフィロスが、からかうように言い、指でルーファウスの顎を捉えた。
骨ばった長い指が、ルーファウスの唇に触れる。
この指が、どんな風に自分を追い立て、身体を開いたかを思い出し、ルーファウスは、思わず身体を震わせた。
「おれは、またおまえを抱きたい」
セフィロスが囁く。
そしてゆっくりと唇が重なる。
ルーファウスは、そっと目を閉じた。
優しく重なった唇が、ゆっくりと、やがて激しく、ルーファウスの唇を貪る。
ようやく離れた唇が、ルーファウスの耳朶に触れた。
「次は、もっと感じさせてやる」
耳に吹き込まれるように囁かれ、ルーファウスは思わず、また身体を震わせた。
セフィロスは片頬に小さな笑みを浮かべ、立ちあがった。
「帰ってきたら連絡する」
そう言うと、部屋の隅に置いてあった刀掛けから、愛刀を手にとった。
長い刀を両手で持ち、感触を確かめるように、少し、刀身を鞘から抜き出す。
磨き抜かれた白刃が、光を受けてきらりと光る。
流れるような美しい動きに、ルーファウスは、思わず目を奪われていた。
「どうした?」
ルーファウスの視線に気づき、セフィロスがわずかに首をかしげた。
「戦うところを見てみたい」
ルーファウスは、思わず言った。
セフィロスは、いぶかしげに眉を寄せた。
「そんなもの、おまえならいくらでも、軍の映像で見れるだろうが」
ルーファウスは首を振った。
「あんなものが見たいのではない。私は実際に戦っている姿が見たいんだ」
「無理だな」
セフィロスは、そっけなく言った。
カチリと音をさせて、刀を鞘にしまう。
「おれがいるのは常に最前線だ。そんなところに、神羅の副社長などがこれるはずがない」
ルーファウスは、ため息をついた。
「なぜ、そんなものが見たい?」
セフィロスはあきれたように言った。
「見て楽しいものではないぞ。目の前の敵を殺しているだけだ。相手がモンスターだろうと人間だろうと、な」
ルーファウスは少し考え、やがて、口を開いた。
「セフィロス」
「なんだ」
「誰よりも強いというのは、どんな気分だ?」
ルーファウスの問いに、セフィロスは、眉を寄せた。
しばらく考え、やがて、
「さあ……考えたこともない」
つぶやくように言う。
「そうか」
「ただ……」
セフィロスが、言い淀んだ。
「ただ?」
「時々、なぜ、自分だけがここまで強いのか、と思うことはある。というより、なぜ他の連中は、おれのようではないのか、と思うことはあるな」
その言葉は、聞きようによっては、非常に傲慢なものだった。
だが、ルーファウスは、その声に、なんとも言えぬ響きを感じ取り、思わずセフィロスの顔を見つめた。
英雄の、冷たい美貌にはなんの表情も浮かんでいない。
だが、その蒼く輝く瞳は、いくぶん遠くを見つめるように細められ、そこには、寂しさとも、哀しさともつかぬような色が浮かんでいた。
セフィロスは軽く首を振った。
「もう行く。ゆっくり休んで行くといい。シャワーも使え」
そして、ふと身をかがめると、ルーファウスの唇に口づけを落とした。
それは、とても優しい感触で、ルーファウスは抱かれている最中に、優しく触れてきた穏やかなキスを思い出した。
「戻ったら連絡する」
軽く手を振り、セフィロスが部屋を出ていく。
ルーファウスは、その、背の高い後ろ姿を見送った。

2011年5月3日 Up

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