吹き抜けのだだっぴろい空間。
その真ん中を貫くように作られたメイン通路。
その手すりによりかかり、ルーファウスは、はるか下方に見える底を見下ろした。
コレル魔晄炉。
まだ建設中とあって、当然、魔晄は、まだ汲み上げられていない。
鉄鋼とコンクリートの、枠組みが作られているだけで、あちらこちらに建設用の足場が組まれている。
だが、いま、そこを行き来するのは、神羅軍ではない。
思い思いの格好をした、テロ組織、アバランチの兵たちだった。
アバランチは、先月、ロケット村での大規模なテロを成功させた。
最も、ルーファウスの一番の狙いであった、プレジデント暗殺には失敗した。
とはいえ、神羅の宇宙開発事業を頓挫させることには成功しており、アバランチとしては、一応の目的を果たしていた。
そして、その勢いに乗って、ここ、コレル魔晄炉を占領。
2度にわたる大規模テロの成功とあって、アバランチは大いに沸き立っていた。
ルーファウスは、吐息をつくと、メイン制御室へ向かおうと、身をひるがえした。
その時、不意に、サイレンが鳴り響いた。
同時に、慌ただしい足音が聞え、振り向けば、アバランチの幹部3人がメイン通路を走ってくるところだった。
「どうした」
「神羅がきたらしい」
シアーズの言葉に、ルーファウスは眉を寄せた。
「………早いな」
確かに、ここコレルは、コスタ・デル・ソルに近い。
ジュノンから、コスタ・デル・ソルまでは、海路で3時間もあればつく。
神羅軍が来るのは、時間の問題だとは思っていた。
だが、そうは言っても、早すぎる。
「頂上付近に、ヘリがついて数人の男が下りたという情報がある」
シアーズが言う。
「装備からいって、ソルジャーではないらしいが……」
ルーファウスは、思わず、宙を仰いだ。
「………タークスか」
ルーファウスの言葉に、エルフェが目を見開く。
「タークスというのは、あの、あなたの警護によくついている?」
「警護にもつくが、本来は、こういう仕事を得意とするんだ。潜入などお手のものだ。……そうだな、うかつだった。タークスなら機動力もあるし、少人数でミッションを成功させられる……とりあえず、外とつながる部分を全部、チェックしろ。ダクトも配管も、全部だ。それから、中枢部分だ。少人数なら、中枢部分に一番近い場所から潜入しようとするだろう。まず、メイン制御室を狙ってくる。守りを厚くしろ」
エルフェがうなずき、無線を取り上げると、早口で命令を伝えた。
「副社長。車の準備が整っている。あなたは、すぐに脱出した方がいい」
シアーズの言葉に、ルーファウスはうなずいた。
「西の出入り口の外に待機させた。あそこが一番、安全だと思う。神羅が来る前に脱出を」
「わかった」
「気をつけて」
エルフェが差し出した手を握り、ルーファウスは踵を返した。
だが、ふと視線を感じ、目を向ける。
フヒトだった。
目が合うと、すい、とそらされる。
ルーファウスは、目を細め、エルフェ、シアーズと共に、話し合い始めた、背の高い後ろ姿を見つめた。
正直なところ、ルーファウスは、このアバランチの頭脳ともいえる男を信用していなかった。
嫌な予感がした。
サイレンが鳴り響き、アバランチ兵たちが、駆け回る中、ルーファウスは、メイン通路を足早に歩いて行った。
見下ろすと、魔晄炉をとりまくように作られたいくつもの通路を、アバランチ兵たちが慌ただしく走り回っているのが見える。
タークスらしき姿は、まだどこにも見えない。
ふと、黒い髪に黒い瞳の男の姿が、脳裏に浮かぶ。
ツォンは、来ているだろうか。
もし、タークスの精鋭を潜入させたなら、当然、いるだろう。
ルーファウスは、足を早めてメイン通路を抜け、鋼鉄の網で作られた階段を下りた。
通路に足を踏み出し、西の出入り口の方向に向かって歩き出したところで、不意に、ドンッという鈍い音に気付いた。
それが銃声だと気づき、振り返る。
ルーファウスのいる通路と、魔晄炉の壁面にぐるりと取りつけられた通路、その交差する部分に、一人のアバランチ兵が倒れ込むのが見えた。
その向こうから、男が、一人、駆け込んでくる。
その姿を見た瞬間、ルーファウスは、思わず、苦い笑みを浮かべていた。
どうしたら、こうも都合よく、真っ先に、最も会いたくない男に会うことになるというのだろう、と思う。
ツォンは、見たこともないほど、鋭い目をしていた。
拳銃を両手で構え、上の通路にいたアバランチ兵に向かって発砲する。
よどみのない、確実な動きで、二人のアバランチ兵を倒すと、目をこちらに向ける。
そして、銃口が、まっすぐにルーファウスに向けられた。
もはや、逃げるひまも隠れる場所もない。
あるとすれば………下だ。
魔晄プールの底に飛び降りるしかない。
だが、この高さだ。
おそらく、飛び降りれば死ぬだろう。
(……どっちにしろ、死ぬことになるか)
ツォンに勝てるとは思わない。
となれば、ここで撃たれるか、プレジデントの前に引き出されるか……いずれにしろ、その先に待つものは死だ。
(負ければ死ぬ)
その覚悟はしていた。
ルーファウスは、通路の手すりに手をかけた。
「………副社長……?」
こちらを見つめるツォンの唇から、呟くような声が漏れた。
鋭く冷たい色を浮かべていた、ツォンの切れ長の目が大きく瞠られていた。
その眉が寄せられ、やがて、黒い瞳に、驚愕の色が浮かんだ。
考えるまでもない。
敵に占領された魔晄炉、その中に拘束もされずにいるとなれば、理由は一つだ。
だが、ツォンの唇が、なぜ、という形に動く。
一瞬で、全てを理解したはずだ。
だが、それでも、なぜ、と問いかけずにはいられなかったのか。
黒い瞳が、なにか、納得できる答えを探そうとでもするように、食い入るようにルーファウスを見つめた。
ルーファウスは、小さく笑った。
そして、両手を手すりにかけ、身体を引き上げる。
片足を手すりの上に乗せ、身を乗り出すと、はるか下方に底が見えた。
だが、不思議と恐ろしくはなかった。
(セフィロス……おまえに会えるだろうか・・・・…)
ルーファウスは、目を閉じ、強く足を蹴った。
だが、その瞬間、強い力で、後ろに身体を引かれる。
そのまま、抱き込まれるようにして、床に押し倒された。
衝撃に息が詰まる。
すぐ近くに、ツォンの顔があった。
その黒い瞳が、必死な色を浮かべ、ルーファウスを見つめていた。
「……なにをっ……なさるんです……っ」
荒い息をつきながら、ツォンが言う。
ルーファウスは、小さく息をついた。
「なぜ、止めた」
ルーファウスの言葉に、ツォンは眉を寄せた。
「なぜ、私がここにいたか、わかっているのだろう?」
ツォンの顔が、苦しげに歪んだ。
「私は、神羅を裏切った。裏切り者には死を、ではないのか」
「……それは……タークスの掟です」
「タークスを作ったのは、親父だ」
ツォンが口を閉ざす。
ルーファウスは、大きく吐息をついた。
「……まあ、どのみち、私に残された道は、死しかないが」
そして、視線をツォンの後ろに向ける。
ツォンが、ハッと振り返る。
そこにはヴェルドが立っていた。
銃口がピタリとルーファウスを狙っている。
「副社長。内通の罪であなたの身柄を拘束します」
ヴェルドの冷たい、厳しい声が言った。
緩んだツォンの腕を押しのけ、ルーファウスは立ちあがった。
そして、銃を向けるヴェルドの前に、まっすぐに立った。
「社長のご命令で、あなたをミッドガルに護送し、幽閉します」
「……幽閉?」
ルーファウスは眉を寄せた。
「はい。社長から、あなたを絶対に殺すな、と命じられています」
ルーファウスは、一瞬、目をみひらき、そして、苦い笑みを浮かべた。
ふと、そのとき、目の隅で、動くものをとらえた。
上の通路を、こちらに向かって走ってくる、アバランチ兵たちだった。
その後ろに、エルフェとフヒト、シアーズもいる。
ルーファウスは、ツォンを見つめた。
こちらを見つめている黒い瞳と、ぶつかる。
そこには、裏切り者に対する、怒りも蔑みも、なかった。
あるのは、ただ、いつもと同じ、自分を気遣い、守ろうとする、強い想いだ。
ルーファウスは、不意にこみあげてきたものに、唇を震わせた。
なぜ、この男は ――――。
なぜ、この期に及んでも、こんな目で、自分を見るのだろう。
全てを理解したはずだ。
自分がここにいる理由も、そして、これまで、自分が何をしてきたかも。
神羅を裏切り、そして、ツォンをも裏切った。
それをわかっていながら、なぜ ――――。
足音に気づいたのか、ヴェルドとツォンの視線が鋭く、上に向けられた。
銃口が、自分からそれ、アバランチに向けられる。
この流れを、止めることはできない。
そして、また、自分もここで、立ち止まるわけにはいかなかった。
一歩踏み出した時から、後戻りはできないことはわかっていた。
たとえ、その先に待つものが死であったとしても、最後まで、突き進むしかない道だった。
この結果がどうなるかは、わからない。
アバランチが負けるか、タークスが負けるか。
自分が死ぬか、ツォンが死ぬか、あるいは、二人とも、死ぬか。
だが、どんな結果になろうとも、はっきりしていることが一つある。
もう、ツォンの黒い瞳が、自分に向けられることはない。
そして、あの温かい手が、自分の身体に触れることもない。
ルーファウスは、深く息を吸い、声を張った。
「アバランチ!タークスを始末しろ」
その瞬間、ツォンの顔に浮かんだ表情を、自分は、一生忘れないだろう、と思った。
その瞳は、あまりにも悲しい色を浮かべて、ルーファウスを、見つめていた。
だが。
不意に、耳障りな嗤い声が響き、ルーファウスは、顔を上げた。
フヒトだった。
その銃が、まっすぐにルーファウスを狙っている。
ちらりと目を動かすと、アバランチ兵の武器も、すべて、ルーファウスに向けられていた。
その後ろで、エルフェが驚いたような顔で、フヒトを見ているのが見える。
「……なるほど……」
ルーファウスは、小さくつぶやき、唇を歪めた。
不思議と、驚きはなかった。
いつか、こうなることがわかっていたような気もした。
「副社長。今までの協力に感謝しますよ。だが、もうあなたは必要ないんでね、あなたを助ける必要もない」
フヒトが、にやりと笑う。
「……さようなら、副社長」
フヒトの声とともに、その銃が鈍い音をたてた。
だがそれより一瞬早く、ルーファウスの身体は床に押し倒されていた。
頭を抱え込まれ、力強い身体が自分に覆いかぶさる。
「タークス、応戦しろ!」
ヴェルドの鋭い声に、あちこちから、いくつもの銃声が響いた。
「副社長、走ります」
ツォンが囁き、次の瞬間、身体を引きずり上げられた。
中腰のまま、ツォンに抱きかかえられるようにして、通路を走る。
そして、突き当りの遮蔽物の陰に身体を押し込まれた。
だが、不意に、銃声がやんだ。
自分の身体を押さえているツォンの意識が、そちらに向けられたのに気づき、ルーファウスは、そっと、護身用の拳銃をスーツの内ポケットから取り出した。
だが、すばやく伸びた手に、その腕を掴まれてひねり上げられ、その痛みに呻いた。
あっさりと銃を取りあげられ、ルーファウスは、小さく吐息をついた。
「……それなら、おまえが私を殺せ」
ツォンが、目を見開く。
「捕えられ、親父のところに連れていかれるなど、ごめんだ。私を殺せ」
「できません」
ツォンは、首を振った。
「どっちにしろ、親父は反逆者を生かしておきはしない。それなら、今、死んだ方がましだ」
「社長は幽閉と……」
「幽閉など、もっとごめんだ。冗談ではない。私を殺すのが命令違反なら、アバランチに殺されたとでも報告すればいい。だから、やれ」
「……できません」
「ツォン」
「私には………できません」
ルーファウスは、ため息をつき、自由な方の手を差し出した。
「それなら、銃をよこせ。自分でやる」
ツォンは、また、首を振った。
「ツォン」
鋭い声で言い、ツォンを睨みつける。
だが、ツォンは、首を振った。
「生きていれば……チャンスはあります」
「なんのチャンスだ」
ルーファウスは、嗤った。
「反逆者として、親父の前に引き出されて、命乞いでもしろと言うのか。何年も、あるいは一生、幽閉されて、親父の顔色をうかがいながら生きろというのか」
ツォンが、うつむく。
「冗談じゃない。はじめから、生きるか死ぬかの賭けだと思っていた。私は負けたんだ。だから、死ぬ。それだけのことだ。早く、銃をよこせ」
ツォンが、俯いたまま、首を振る。
そして、呟くような声が、その口から洩れた。
「………死ぬなどと……おっしゃらないでください……」
ほとんど聞こえないくらいの声。
「……お願いします……」
ツォン、ともう一度、言おうとして、ふと、ルーファウスは、口を閉ざした。
目の前の床に、ポツリ、と落ちたものがあった。
そして、また、ポツリ。
やがて、ぽたり、ぽたり、といくつもの水滴が、床を濡らした。
ルーファウスは、目の前でうつむく男を見つめた。
ツォンが、泣いていた。
(「私は、ただ、副社長をお守りしたいだけです」)
夜が明けたばかりの静かな海で、呟くように言ったツォン。
そして、震える手に重なった、温かい手。
あまりにも近くにいたから、わからなかった。
仕事だと、それがタークスとしての、この男の仕事だと思っていたから、気がつかなかった。
だが、ルーファウスは、ようやく理解していた。
ツォンが、なぜ、あんなにも、自分を守ろうとしたのか。
そして、この期に及んでも、なぜ、まだ、守ろうとするのか。
信念と感情に従います、と言った本当の意味を、ようやく理解していた。
ルーファウスは、床に滴り落ちる水滴を、ただ、見つめていた。
□■□■□■□
ツーー…と、鍵の閉まる音がした。
思ったより小さな音に、ルーファウスは苦笑する。
もっと、金属質な、たとえば、ガチャリ、というような音がするのかと思った。
(まあ、どんな音だろうと、おれを閉じ込める音には違いない)
苦く笑い、自分と世界を遮断した、扉を見つめた。
その扉も、見た目は普通の、曇りガラスを用いた、ただのドアのようにも見える。
だが、このガラスも、強化ガラスを何層も重ねた、防弾効果もある最新式のガラスだそうで、厚さも20センチほどもありそうだった。
振り返った室内も、応接セットがおかれ、その向こうには、執務用のデスクがおかれ、窓がないことをのぞけば、幹部用の重役室となんら変わらぬ内装だ。
そのデスクの後ろには扉があり、その向こうが、プライベートゾーンになっており、寝室やバスルーム、ダイニングなどが造られていることは、先ほど、確認済みだった。
そのすべてがシンプルではあるが、広々としたスペースをとった贅をこらしたもので、とてもではないが、ここが牢獄であるとは思えない。
もともとあったタークスの監禁施設の一部を改造したという話だったが、数日の間にここまでの設備を整えるのは、並大抵のことではなかったはずだった。
そしてデスクに置かれた最新式の端末システム。
どの程度のアクセス権限が与えられているのかはわからないが、少なくとも、あれがあれば、世界とつながることはできる。
つまり、父親は、少なくとも、自分から全てを奪い取り、飼い殺しにするつもりではなさそうだった。
先ほど、自らここまで足を運んだ父親は、ルーファウスを冷たく見据え、「ここで、しばらく謹慎しろ」と言った。
「時間はたっぷりある。見聞を広めろ」と。
(時間はたっぷりある、か)
ルーファウスは、苦く笑い、壁に背を預けた。
疲れていた。
ずっと走り続けてきたような気がする。
生まれてから、ずっと、何かに追い立てられるように、走ってきた。
もっと早く、もっと上に、もっともっと……。
だが、今となってみれば、そのすべてが、夢の中の出来事だったような気さえするほど、現実感がない。
ずっと、自分はここに閉じ込められたまま、夢を見ていたような気さえしてくる。
ルーファウスは、自分の手を、見つめた。
この手に、掴んだと思ったもの。
それも全て、こぼれ落ち、もう、何も残っていない。
あれほど、鮮やかに、感じられた感情も、心を震わせた想いも、すべてがこぼれ落ち、消えうせた。
あれは、本当に、この手がつかんだものだったのだろうか。
本当に、存在したものだったのだろうか。
ふと、鍵の開く音がし、ルーファウスは目を開けた。
扉が開き、その向こうに、ツォンが立っていた。
「失礼します」と言い、軽く頭を下げ、室内に足を踏み入れる。
ルーファウスは、思わず、苦笑した。
自分は、要するに囚人だ。
囚人相手に、失礼します、もなにもないだろうに、と思う。
だが、それが、このツォンという男なのだった。
ふと、この男の目から滴り落ちた涙を思い出す。
あの日、コレルでタークスに捕らわれてから、三日が過ぎている。
だが、あの後も、この男の態度は、まったく変わらなかった。
生き別れた娘であったエルフェを追って、タークスを抜けたヴェルドに変わり、このツォンが、タークスの主任になったと聞いた。
ルーファウスをミッドガルに護送し、ここまで、連れてきたのも、当然、ツォンだった。
その間も、相変わらず、冷静で、余計なことは何一つ言わず、淡々と任務をこなしていた。
だが、涙をあふれさせた、あれが、この男の本来の姿なのだろうと思う。
情に厚く、感情が豊かで、だからこそ、表情は消していても、この黒い瞳には、抑えきれない感情が揺らめくのだろう。
ツォンが、ゆっくりと歩いてくる。
一瞬、なにが起こったかわからなかった。
気がつけば、ツォンの腕に身体を引き寄せられ、抱きしめられていた。
驚き、目をまたたく。
「……ツォン……?」
ツォンは何も言わず、ただ、ルーファウスの身体を抱きしめている。
おそらく、少しでも、自分が抵抗すれば、すぐに、ツォンの腕は離れていくのだろう。
だが、ルーファウスは、自分が、少しも不快に思ってはいないことに気づいていた。
ただ優しく、包み込まれるように抱きしめられ、不思議な心地よさと、なんともいえぬ安心感に満たされていた。
もう、二度と、この腕が、自分に触れることはない、と思った。
だが、また、こうして、自分に触れ、その温かさを伝えてくる。
その温かさが、空虚に凍りついた胸を、溶かしてくれるような気がした。
全てを喪い、なにも残っていないと思った、己の手。
だが、少なくとも、一つは、この手に残されていたのかもしれない、と思う。
やがて、ツォンの静かな声が言った。
「いつか……出られます」
「……この部屋からか?」
「この部屋からも……あなたを縛るものからも……いつか」
「……そうか」
「はい」
ルーファウスは、目を閉じた。
温かい身体を感じながら、少しでもこの時間が長く続けばいいと………そう、思った。
END
2011年5月23日 up