明日へ続く道

奇跡ってもんは、本当に起こるんだ。
俺は、伍番街スラムの教会の光景を見ながら、思っていた。
確かに、あの運命の日の、ライフストリーム、あれも奇跡には違いない。
だけど、あの時は、正直に言えば、何が起こったかわからなかった。
あとになって、あれがライフストリームで、星がメテオの脅威から自分の身を守ったんだ、ということがわかっただけだった。
だけど、今、見ているこれは違う。
目の前で本当に、奇跡が起きていた。

クラウド達がジェノバの思念体を倒した後。
ミッドガル、いや、エッジに雨が降った。
初めは、ただの雨だと思った。
ところが、街のあちこちから、星痕が消えたぞ!という叫び声が聞こえてきて、ツォンさんが、すぐに社長を雨の中に連れ出した。
半信半疑だった。
社長が、巻いてあった包帯を取り去り、雨の中に、右手をかざした。
その手の甲に広がる、どす黒く禍々しい染みを見て、俺は思わず息をのんでいた。
社長の星痕症候群の症状がかなり進んでいたことも、最近では、薬を飲んでいても、たびたび発作に襲われて、相当酷い状況だったのも知っていた。
だけど、社長は、常に自分の身体を包帯や布で隠していたし、だいたいが、人に弱みを見せる人じゃない。
発作が起こると、すぐに、「出ていけ」と言われて、俺たちは、その部屋から追い出された。
ヒーリンは言ってみれば、星痕症候群の患者の街だ。
だから、あれがどんなものかは、よく知っている。
発作が起きれば、すさまじい激痛に襲われ、その発作の中で死ぬ患者もいることも知っていた。
だから、本当は、社長のそばについていたかった。
ツォンさんはもちろん、たぶん、ルードもイリーナも同じだったはずだ。
だけど、社長は、絶対に、発作の時に、俺たちが近くにいることを許さなかった。
苦しそうに、歯を食いしばって、出ていけ!と叫ぶ社長は、見ていられなくて、イリーナは、いつだって、部屋を出された後に、泣いてたものだった。
しばらく、部屋の中でうめき声が聞こえていて、やがてそれが収まる。
そうすると、ツォンさんが、そっと中に入る。
汚れた包帯や服を取り換えていたんだろうと思う。
そのあと、ようやく、俺たちが部屋の中に入ることを許される。
俺たちが部屋に入れば、もう、社長はいつもどおりで、「大丈夫ですか?」とイリーナが言えば、「いつもの発作だ。大したことはない」と、例の、少し皮肉っぽい、そっけない口調で言うだけだった。
だから、俺が、社長の星痕を見たのは、実は、とても久しぶりのことで……。
社長の、驚くほど痩せて、骨が浮き出るくらい細くなった手。
星痕のどす黒い染みは、すでに、その手の甲、全体を侵していた。
隣にいたイリーナもはっと息を飲んで、口に手を当てていた。
それくらい酷かった。
そして、そこに、雨が落ちた。
最初は何も起こらなかった。
黒い染みに、雨粒が落ち、そのまま、社長の細い手首に滴り落ち、白いスーツの袖を濡らす。
やっぱり、デマか……と落胆しかけたとき、奇跡が起こった。
社長の手が、淡く光り始めたんだ。
その光は、社長の手の内側から出ているみたいで、最初は、淡く、小さな光だった。
だけど、それが、だんだん手の甲全体に広がっていき、最後には、社長の手、全体が、光を発したように光り輝いた。
そして、その光が消えたあと、社長の手の甲から、黒い染みはきれいに消えていた。
もともとの社長の、白い、きれいな肌が、そこに現れていた。
「……驚いたな……」
社長の声に、我に返った。
イリーナが泣いていた。
ルードも、空を見上げて、鼻をすすりあげていた。
あのツォンさんでさえ、驚きに目を瞠って、社長の手を見つめていた。
その中で、当の社長が、一番、冷静だった。
自分の手をまじまじと見て、少し、笑った。
でも、それは、苦笑、に一番近かった気がする。
なんとなく、社長は、もう、死ぬ覚悟を決めていたんじゃないかな、と思う。
だから、ジェノバを自分が隠し持つなんていう、大胆な作戦に出たんじゃないか、と。
もっとも、考えてみれば、社長はいつだってそうだった。
アバランチの内通の時も、ウェポンの攻撃の時も、今回も……いつだって、自分自身を賭けているようなところがあった。
自分を賭けて……いつでも死ぬ覚悟を決めていたような気もする。

あの雨で、社長の手や腕や首に出ていた黒い染みは、きれいに消えた。
だけど、実は、星痕が完治したわけじゃなかった。
社長が星痕症候群にかかってから、もう2年以上がたっている。
薬で発作を抑えていたものの、時々、黒い粘液を吐くこともあったくらいだから、内臓もやられていたんだろうと思う。
それに、社長は、ずっと、額と左目を包帯で覆っていた。
俺は、ただ額と目の周りに星痕が出ているんだろう、と思っていたんだが、実は、社長のきれいな蒼い目が、星痕にやられていたんだ。
肌の星痕とちがって、膿などは出なかったらしいが、ほとんど何も見えなくなっていたらしい。
そして、あの奇跡の雨も、この目は治してくれなかった。
ということは、内臓にまで達した星痕だって、治っていないということじゃないのか?
そこはどうかわからなかったけど、目が治らなかったのは確かなことで、せっかく、完治すると思ったのに、俺たちはみんな、やりきれない想いでいっぱいだった。
そんなとき、雨が止んだ街のあちこちで、奇跡の泉があるぞ!という叫び声が聞こえたんだ。
伍番街スラムの教会に、奇跡の泉ができている、と皆が興奮して叫んでいた。
星痕症候群の患者が、続々と集まっている、という話だった。
俺も、社長たちをその場に残し、すぐに見に行った。
伍番街スラムの教会。
懐かしい場所だった。
古代種のエアリスが花畑を作っていた場所だ。
昔、俺が花を踏んだといって、彼女が怒ったのを覚えている。
泉は、かなり水の量も多く、教会の床全面を覆っていた。
泉の真ん中にクラウドが立ち、子供たちに水をかけてやっていた。
もちろん、大人たちも、泉に身体を浸し、歓声をあげていた。
あちこちで、淡い緑色の光が輝いていた。
その光で、子供たちや大人たちの、顔や体を覆っていた黒い染みが、消えていく。
誰もが、笑っていた。
笑いながら、泣いていた。
俺も、少しだけ、泣いた。

すぐにも社長を泉に連れて行きたかったが、そういうわけにもいかなかった。
なぜなら、社長は、死んだことになっているから。
いまだに、人々の神羅に対する恨みは大きい。
それでいて、神羅が社会復興のために何かをするべきだ、とみんな、口をそろえて言う。
正直、勝手なことばっかり言ってるんじゃねえ、と言いたくなるが、まあ、民衆の気持ちからしたら、そうなるんだろう。
だから、もし、社長が生きていると人々に知られたら、たぶん、いい方には転がらないだろう、と俺たちは思っていた。
社長を、変装させて連れてくることも考えたが、社長はとにかく目立つ。
きれいな人形みたいな顔と、キラキラの金髪、蒼いきれいな目、それだけでも目立つのに、なんというか、社長は、もう雰囲気が、目立ってしまうのだ。
そこに立っているだけで、常人とは違うオーラが出ているような感じで、それは、隠しおおせるものでもなかった。
それで、夜中なら、大丈夫じゃないか、という結論になった。
エッジが作られ、復興のきざしはあるが、やはり燃料も資材も不足している。
夜は、すべての灯りが消え、真っ暗になる。
それなら、なんとか、見られずに社長を泉に連れてこれるんじゃないか、そう思ったんだ。

そして、あの奇跡の雨から三日目の夜中。
俺たちは、社長を車に乗せ、二台の車に分乗して伍番街スラムの教会を目指した。
その間、社長は一言も話さず、興味深そうに、ミッドガルの廃墟を見つめていた。
教会につき、万が一のことを考え、人目につかないところに車を隠す。
車椅子を出し、いつものように、ツォンさんが社長を抱きかかえるようにして、車椅子に乗せた。
俺が先導して、ツォンさんが社長の車椅子を押し、その横にイリーナ、そしてしんがりをルード。
いつものやり方で教会の前まで行く。
木の扉の前に、クラウドが立っていた。
腕を組み、相変わらず、不機嫌そうに唇を引き結んでいる。
何か言ってくるつもりか?と身構えたが、俺たちを見ると、すっと脇によけた。
隣にいたティファが、教会の扉をあけ、俺たちが中に入ると、静かに外から閉めた。
どうやら、門の外で、番をしてくれるつもりのようだった。
お互いに、何も言わなかった。

泉には、もちろん、誰もいなかった。
一つだけランタンが灯され、幻想的な雰囲気が漂っていた。
水はどこかから湧き出ているらしく、三日たった今でも、教会の床全部を覆い尽くすほどの水量があった。
ツォンさんが、車椅子を止める。
「失礼します」
囁いて、社長を抱き上げ、そのまま、服がぬれるのもかまわず、泉の中に入っていった。
そして、ランタンの近くで、社長の身体を水の中につけた。
「自分で立つ」
社長がそう言って立とうとしたけど、バランスを崩して、あわててツォンさんがその身体を支えた。
「まだ、無理です。おとなしくしてください」
ツォンさんが、きっぱりと言って、もう一度、社長の身体を抱きかかえる。
いわゆる、お姫様だっこってやつだ。
そして、社長の左目に巻かれた包帯を、ゆっくりとはずすと、そっと、水をかけた。
俺は、うわーと思っていた。
そのツォンさんの、まるで壊れ物でも扱うような手つきもそうだが、俺は、ツォンさんの顔にやられていた。
ツォンさんは、基本的に無表情だ。
実際は、かなり情に厚い人だから、それは意識して表情を消しているのだろうけど、たいてい、無表情で、めったに表情を変えない。
そのツォンさんが、めちゃくちゃ、優しい顔をしているのだ。
といっても、すごい微笑んでいたとか、そういうことじゃない。いや、それだったら、逆に怖い。
そうではなく、基本的には無表情なのだが、目が、違うのだ。
目が、信じられないほど優しい。
ツォンさんが、あんな目をするのは、初めて見た。
見ているこっちが恥ずかしくなるほど、その目には、ツォンさんの感情がだだ漏れだった。
もう、ツォンさん、いいから、そのままキスしちまえよ!と思った。
だが、そんな気分になったのは、俺だけではなかったようで、右隣にいたイリーナが、両手の指を口に当て、小さく「うわーーー」と言っていたし、左を見れば、ルードの浅黒い頬が、ほんのり赤く染まっていた。
だが、俺は知っている。
こんなに、ラブラブっぷりを辺りに振りまいているくせに、この二人は、できていないのだ。
いや、ラブラブっていうのは、違うか。
ツォンさんが社長にべた惚れなのは、もう、昔から周知の事実だった。
これはもう、副社長時代からそうで、いろんなエピソードがある。
たとえば、エレベーター寸止め事件。
詳しい事情は知らないが、社長が副社長時代に、車も呼ばず、SPもつけないで、飛び出そうとしたことがあった。
あの頃は、社長もまだ十六歳だったし、まあ、いろいろとあったんだろう。
正直、当時は、社長 ――――まあ、あの頃は副社長だけど ――――を見るたびに、俺は同情していた。
だって、十六歳だ。
普通だったら、仲間とくだらないことを話して、女の子にちょっかい出して、ぐだぐだと過ごしているもんじゃないか。
それなのに、十六歳で、カンパニーの副社長だ。
初めはお飾りの副社長かと思っていたが、本当に、副社長として仕事をしていた。
それも、年齢も倍以上違う重役たちと渡り合って、堂々と仕事をしていたらしい。
それに、あの頃は、まだ大学にも通っていた。
カンパニーと大学を往復する毎日で、しかも、いつも俺たちやSPがぞろぞろとくっついて歩く。
こんな生活、俺だったら耐えられない。
だけど、副社長は、文句ひとつ言わなかった。
俺は、仕事柄、いろんなVIPに接してきた。
VIPと言えども、中身はただの人間だ。
嫌な奴もいる。
その中には、警護している俺たちに、文句ばかり言う奴もいれば、こっちのことを人間とも思っていない奴もいるし、とにかく勝手で、守りにくいことこの上ない奴もいる。
これはあまり、知られていないことだが、守りやすいVIPと守りにくいVIPがいる。
その違いは、もちろん、守られる側が、きちんと守りやすいように動いてくれるかどうか、だ。
その点、副社長は、とても守りやすいVIPだった。
たぶん、生まれた時からこんな生活だから、SPに守られ慣れてたってこともあるんだろう。
勝手なことはしないし、きちんとこちらの指示に従ってくれる。
基本的に予定通りに動いてくれるし、予定を変えたくなれば、早めに、それも明確に指示を出してくれる。
警護の状況の中で、時には、VIPに待ってもらわなければならないことなども、時としてある。
そんな時も、副社長は、「わかった」と言うだけで、文句も愚痴も、絶対に言わなかった。
それだけじゃない。
副社長は、傲慢だとか、勝手だとか、いろいろ、巷では酷いことを言われていたが、実際はそうじゃない。
無駄なことは嫌いで、思ったことをはっきり口に出す性格が、誤解されていたのかもしれないが、細かいどうでもいいことは気にしなかったし、命令は明確でとてもわかりやすかった。
一度言ったことは、めったなことでは変えなかったし、なにより、俺たちのことをちゃんと認めてくれていた。
一度会っただけで、顔と名前をしっかり覚えていた時には、感動すらしたもんだった。
だから俺は、周りがどう言おうと、きれいでえらそうな副社長が、嫌いじゃなかった。
でも、これは、タークスはみんなそうだったんじゃないだろうか、と思う。
だけど、やっぱり副社長は、十六歳だったんだ。
どんなに、ちゃんとやっていたって、中身が十六歳であることに変わりはないだろう?
だから、俺はいつだって、少し同情してたし、だから、あの騒ぎが起きた時だって、「まあ、そんなこともあるだろ」くらいに思った。
ちょうど俺は、副社長室の廊下を挟んで反対側にある、タークスのオフィスにいて、廊下で騒ぎが起きたことに気がついて、なんだなんだ?と思ったことを覚えている。
まだ当時は、ヴェルド主任の時代で、ツォンさんもオフィスにいて、主任になにかの報告をしている最中だった。
その時、廊下で、「副社長!お待ちください!」という秘書の呼び声が響いたんだ。
その瞬間のツォンさんが、見ものだった。
主任に報告中にもかかわらず、椅子を蹴り倒す勢いで、オフィスを飛び出して行ったんだ。
あの、動じないヴェルド主任でさえ、驚いてあっけにとられたくらいの勢いだった。
俺たちも、みんな???だったが、「副社長!せめてSPはつけてください!」というあわてふためいた秘書の声が聞こえてきて、ただ事じゃないことに気づいたのだ。
それで、俺たちも、いっせいに廊下に飛び出した。
いや、まあ、俺は、正直、野次馬根性だったんだけど。
だって、ツォンさんが、もう飛び出して行ったんだ。
ツォンさんが何とかするだろう?
そして、そのとおりだった。
おれたちが廊下に出た時には、白いスーツの副社長が乗ったエレベーターの扉が、すでに閉まろうとしている時だった。
そして、すごい勢いでエレベーターに突進したツォンさんが、手をドアの間に突っ込んで、強引にそのエレベーターのドアを止めたんだ。
正直、あれには、ものすごく驚いた。
いや、ツォンさんが、かっこよかったのは確かだ。
だけど、ツォンさんは、基本的に、物静かな人だ。
もっとも、拳銃の腕は超一流で、たぶん、あの頃もタークス内で一番の凄腕だっただろうと思う。
それに、その頃はすでに、本社でヴェルド主任の右腕的な役割を果たしていたが、それまでは、かなり危ない仕事をしてきたらしく、実際の戦闘能力も相当高いらしかった。
だけど、その物静かな外見のせいか、あまりそうは見えないのだ。
タークスは、いろいろな能力の持ち主が集まっている部署だ。
だから、肉体派もいれば、知能派もいる。
俺の相棒のルードなんかは、完全に肉体派だし、俺も、どっちかと言えば、そっちだ。
そして、ツォンさんは、その外見からは、完全に知能派に見える。
だから、その、物静かで知能派なツォンさんが、肉体派も顔負けな迫力で突撃し、エレベーターを強引に止めたってのがものすごい驚きだったのだ。
しかも、そのエレベーターには、あの副社長が乗っているのだ。
俺もそうだが、周りで見ていたタークスの連中は、みんな、口をあんぐりとあけて、その衝撃のシーンを見つめていた。
エレベーターに乗っていた副社長も、あれには、びびったんじゃないだろうか。
結局、ツォンさんがそのまま、副社長を護衛してどこかに連れて行き、しばらくして、ツォンさんだけ、社に戻ってきた。
みんな、興味津々で、ツォンさんの様子をうかがっていたが、もちろん、ツォンさんは無表情だったし、何も言わなかった。
その様子は、しばらくタークス内で語り継がれて、一部で、ツォンさんと副社長ができている、という噂も流れていたみたいだった。
まあ、できていても不思議じゃないくらい、ツォンさんは副社長にべた惚れだったけど、たぶん副社長の方は、なんとも思っていなかったんじゃないかと思う。
あの頃の副社長は、とにかく、男も女もとっかえひっかえな感じだった。
もちろん、噂が一人歩きしていたところもあるんだろうけど、俺は、ツォンさんについて、けっこう副社長の警護をしていたからわかる。
実際に、副社長は、あちこちに愛人がいたし、情事のはしご、なんていう、けっこう、えげつないこともしていた。
コスタ・デル・ソルにも、毎週末、ヘリを飛ばしてカンパニーから直行してたりもして、その乱行ぶりは凄かったみたいだった。
だから、俺なんかは、そんなに副社長が好きなら、一発お願いすればいいのに、と内心、結構本気で思ってた。
だけど、もちろん、ツォンさんにそんなことができるわけもない。
で、そのあと、すったもんだがあって、副社長は、タークス本部の地下にある監禁施設に幽閉された。
ツォンさん、チャンスじゃん、と思ったけど、考えてみれば、ツォンさんがそんな状態で副社長に言いよれるわけもない。
だって、副社長は、事実上、タークスに監禁されていたんだ。
副社長の生殺与奪は、ツォンさんが握っていたことになる………まあ、もっとも、あのツォンさんが副社長の不利益になることをするわけがないし、副社長の性格からしたって、おとなしく誰かの言いなりになるわけもなかったんだけど、でも、要するにそういうことだった。
とすれば、ツォンさんに、そんな、副社長の足元を見るような真似ができるわけもない。
結局、4年間の謹慎生活は、副社長は、清く正しく、生活をしたらしかった。
そして、謹慎がとけて、晴れて、チャンス到来?と思ったら、セフィロスが現れて、メテオの騒ぎだ。
ツォンさんは、古代種の神殿で死にかけるし、社長はウェポンの攻撃で死にかけるし、やっと再会できたと思ったら、今度は、社長が変態の軍人に監禁されて、次は、頭のおかしい医者に監禁されて………いや、まあ、これは俺たちが悪いんだけど……。
で、やっと、助け出したと思ったら星痕症候群。
治療法を探して、ジェノバを探しに行ったら、ツォンさんが思念体にとっつかまって、拷問されて、また死にかけて……。
考えてみると、こんなに波乱万丈な二人っていないんじゃないだろうか……。
まあ、でも、これで星痕症候群からも解放されたし、よかったじゃん、と思う。
ツォンさんは、どんな風に、社長を口説き落とすんだろう。
それを想像すると………

「……レノ。何をぼんやりしている」
ふと、ツォンさんの厳しい声に、我に返った。
「あ……れ?」
気がつけば、社長もツォンさんも泉からあがっていた。
社長は車椅子に座り、イリーナが差し出したタオルで、軽く顔を拭いている。
その顔には、もう、黒い染みはどこにもなく、元の、人形みたいに整ったきれいな顔にもどっていたし、左目も、きれいな蒼色だった。
「先輩、社長にみとれていたんですよね」
イリーナがくすくす笑いながら言う。
「え?」
「社長、色っぽかったですもん」
よく見てみれば、社長はスーツのジャケットは脱いで、下のシャツも、新しいものになっている。
つまり、泉の中で、全部脱いだってことか????
「男が色っぽくてどうする」
社長の皮肉っぽい声が言った。
そして、小さくため息をついて、自分の身体を見下ろした。
「下が気持ち悪いが……まあ、ここでストリップするわけにもいかんな」
ああ、下はさすがに脱がなかったのか……。
いやいや、だけど、上は全部脱いだのか!!
見逃した………。
二度とは見れないだろう、貴重なものを見逃した……。
だが、ふと、視線を感じて、目をやると、黒い瞳が、じろり、とこちらを睨んでいた。
そこには、剣呑な光があって……
いやいやいや。
だいじょうぶだって!ツォンさんと社長の間に割って入るつもりなんかないんだぞ、と!
と思いつつ、濡れた髪を額に貼りつかせた社長が、恐ろしく色っぽいのも事実で……。
いやいやいやいや。
俺は、ノーマルだ。
社長は男だ。
だが………。
「社長、レノ先輩に気をつけてくださいね。なんだか、やらしい目で見てます」
「ええええええ、ちょっ……」
ツォンさんが、乾いたスーツの上着を、社長に着せかける。
それに、手を通しながら、社長が俺の方を、見た。
ああああ、その流し目、やばすぎるんだぞ、と……。
「レノ、一週間、休暇をやる。遊んで来い」
社長が、からかうような声で言った。
社長の声というのは、なんともいえぬ艶がある。
口調が、そっけないのと、えらそうなのとで、あまりそうとは感じさせないが、声だけを聞くと、恐ろしく色っぽいのだ。
「は……はい…??」
「私で興奮しているようでは、どうしようもないだろう」
「ええええええ……いや、あの、そうじゃないんだぞ、と……ああ、でも、休暇は嬉しいんだぞ、と……」
しどろもどろになる俺をみて、社長がおもしろそうに笑った。
「ルードもイリーナも、休暇をとっていいぞ。有給扱いにしてやるから、安心しろ」
イリーナが、歓声をあげる。
そして、社長は、ちらっとツォンさんを見上げた。
「ツォン、おまえも休みをとれ」
だが、もちろん、ツォンさんが喜ぶわけもなく……。
「いえ、私は結構です」
とかなんとか、答えている。
そこで、ハッと気がついた。
これは、あれか?
俺たちが休暇をとっていなくなったら、ツォンさんにとっては、チャンス到来なのか?!
そうなのか??
思わず、ツォンさんと社長を、まじまじと見つめてしまう。
二人のベッドシーンを思わず、想像してしまい……。
まずい、思考回路が……。
「レノ、車を回せ」
ツォンさんの厳しい声が飛ぶ。
「了解だぞ、っと」
俺は、これ幸いと、あわててその場を逃げ出した。
だが、車を取りに走りながら、思わず、にやりと笑ってしまったのは内緒だ。
なんだか、心の中がうきうきして、外で壁に寄りかかって待っていた無愛想なクラウドにまで、「感謝してるんだぞ、と」なんて陽気な声をかけてしまった。
クラウドが、あっけにとられたような顔でこっちを見たけど、そんなことも気にならなかった。

疲れたのか、ミッドガルを抜けると、社長は後部座席のシートに身体を預けて寝てしまった。
その横で、ツォンさんが、そっと毛布を社長の身体にかける。
そんな二人をバックミラーから見ながら、俺は、心の中で、ずっとにやにやしていた。
ふと、東の空を見ると、うっすらと空が白み始めていた。
新しい一日が始まろうとしていた。

END

2011年5月24日  up

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